地域に根ざした
精神医療

   社団法人日本精神科看護技術協会
「精神科看護」 2000年11月号掲載

レポート「私たちの実践」より

医療法人久幸会  研修課  高崎 義輝

1.久幸会組織

 私ども医療法人久幸会(以下、当法人と略す)本部は、秋田県秋田市の北部に位置する、総合的な医療福祉施設である。詳細については図1を参照していただきたい。
 精神科・痴呆性老人医療および介護保険関係事業を中心に、地域の要望により内科、小児科、整形外科、リハビリテーション科、歯科などの診療も行っている。母体となる今村病院と介護老人保健施設ニコニコ苑の病床数は343床、構成施設全体の職員数は約400名である。
 当法人理事長稲庭千弥子が赴任したのは1981(昭和56)年、当時の閉鎖的な精神改良に疑問を感じ、地域住民との話し合い、いわゆるお酒を飲みながら要望を聞いていくことから、地域に必要としている精神医療の模索が始まったようである。その後急速に必要な施設の増強がなされ、約10年で現在のような総合施設となる。
久幸会組織図

2.私たちの目指すもの
  −地域に根ざした精神医療−

 「地域に根ざした精神医療」の提供のためのポイントは、大きく2つに分けられると考える。
 1つは地域住民が気軽に立ち寄れる精神病院づくり。もう1つは精神医療サービスの充実があげられる。以下ポイントに沿って整理する。


1)地域住民が気軽に立ち寄れる精神病院づくり


 一般に精神病院の場合、地域住民が気軽に立ち寄れる雰囲気ではないと思う。一般住民からみれば変な人がいる病院と思われることも多く、精神障害、知的障害の理解というのはまだまだ乏しいと思われる。私たちは、これらを啓蒙するべく、下記のような取組みを行った。

(1)小児科など地域住民が活用できるような診療科目を増科
 まずは来てもらうこと、みてもらうことが重要であり、地域住民の要望にあった診療科目をもつことにより、病院に足を運んでもらう。

(2)ボランティアの受け入れ窓口として、地域交流課を設置
 地域には多くのボランティア資源があることはわかっていても、有効に活用するのは実際難しいものと考える。何の説明もなく、「さあどうぞ」というのでは、現場職員が混乱するだけでなく、ボランティアにお越しになった方の満足度もえられないと考える。
 当法人では、地域ボランティアのコーディネイトをする「地域交流課」を設置、3名の職員が専門に対応している。必要に応じて、ボランティアの方々の案内や教育、現場との調整を行っている。
 ボランティアの受け入れはそれなりの時間と努力が必要であり、コーディネイトする職員がいてこそ病棟でいかされる、またボランティアの方々の満足度も高まると考える。

(3)患者様による地域ボランティア実施
 地域の住民がお越しになるのを待つだけではなく、積極的に地域のイベントや清掃などの逆ボランティアにうかがうようにしている。地域住民ともちつもたれつとしての関係は重要で、結果として利用者の社会交流、社会役割づくりにつながっていると考える。

(4)家族会事務局のお手伝い
 患者様本人への医療福祉サービスの提供はもとより、ご家族の支援、援助(レスパストケア)は欠かせない。同じ境遇にたったご家族同士での話の場づくりは重要で、3つの家族会の事務局のお手伝いも行っている。
 家族会は結果的に、法人内サービスのオンブズマンとしての機能をもち、利用者ニーズの把握につながっている。

(5)地域住民の見学、勉強会、学生の実習受け入れ
 地域住民の勉強会(公民館での社会福祉勉強会)のお手伝い、講師派遣などは、積極的に行っている。また、学生の臨床学習などは優先的に受け入れている。

2)精神医療サービスの充実

 住民の理解、信頼をえるには、最終的には質のよい精神医療サービスを提供できるかであると思う。精神医療サービスは治療としてのサービスと生活援助としてのサービスに分けられると考えるが、複雑で目に見えない精神の障害に、やる気と心だけでは対応できないと思う。対応できる器(施設、サービス)と、器を広げ丈夫にする職員の資質の維持、向上が欠かせない。

(1)多くの医療福祉施設を持つこと
 利用者の一番のニーズは、困ったときに助けてくれる病院施設であると思う。当法人では、多機能の施設、複数の在宅サービスをもつことにより、基本的には、精神障害者、痴呆性老人を、終末期までみることを可能にしている。
 利用者、ご家族の事情やニーズにより、生活環境を重点とするとグループホームという選択肢があったり、医療保険と介護保険をリンクさせるかたちで、種々のサービスの提供が可能である。また痴呆性老人が骨折した場合、総合病院で手術した後は、抑制帯に縛られて寝たきりというケースや入院不可というケースもあるが、整形外科をもつことで術後のリハビリも、必要な精神医療とともに提供することを可能にしている。
 現在、手術室の準備も進んでおり、今後は上記のケースにも法人内部で対応できる予定である。

(2)多くの専門職を採用し専門医療を提供する
 精神障害者や痴呆高齢者の種々の症状に対応するには、他職種によるチームアプローチが必要不可欠であり、多くの専門職を配置している。とくにリハビリ部門では充実し、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の他、臨床心理士、福祉レクリエーションワーカーなど非常勤を含めると20名を超えるスタッフ構成になる。所属施設だけでなく、必要に応じ、あらゆる法人施設でのサービスを行っている。

(3)職員研修の企画運営を行う研修課を設置する
 法人内の研修企画運営、法人外への研修派遣など、年間計画に基づき行っている。概略は図2を参照していただきたい。
 先駆的取組みなどは、研修、計画、実施、評価の一連の計画により行われる。また院内感染委員会等、関係委員会との協力により、各種マニュアルなどが作成され、日常業務に生かされる仕組みになっている。
 最近の事例では、回想法、園芸療法、音楽療法、気功など痴呆性老人のアクティビティケアや漢方薬などを実施する。また現在、嚥下障害治療チームの結成のため、基礎研究を行っている。
教育・研修プログラム図

3.今後の課題

 「地域に根ざした精神医療」を提供するための、私たちの実践について大まかに紹介した。
 当法人は、規模を大きくし選べるだけのサービス量をもつことで、地域の要望に応えてきたつもりであるが、反面、職員数の増加により職員同士のつながりや職場の士気の低下が目立つようになったのも現実である。接遇一つにしても、挨拶できる職員とできない職員の格差が広がり、今、テコ入れをしている。相手は人。選ばれる施設は、やはりよい職員のいる施設だと思う。
 職員が楽しく仕事をしていけるような環境づくりにより、職員ひとりひとりが魅力のあるサービスを提供できれば、もっともっと地域の理解も深まると思う。当法人の課題は、職員ひとりひとりの資質の向上であろう。


社団法人日本精神科看護技術協会「精神科看護」 2000年11月号掲載
レポート「私たちの実践」より